華族―近代日本貴族の虚像と実像 (中公新書)



華族―近代日本貴族の虚像と実像 (中公新書)
華族―近代日本貴族の虚像と実像 (中公新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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財閥と軍には対抗できなかった

華族とは、そもそも大名家と公卿家を中心として定められた。なるほど、江戸時代までは平民とは身分が隔絶していた家系である。彼らが中心となって政治を行えば、その権威に民衆は従ったのではないか。しかし、明治政府を仕切っていたのは、薩長の下級武士出身者たちであった。大名や公卿出身の者は、近代日本の建設よりも、投資して金を儲け、広い屋敷で贅沢な生活をすることに興味があったらしい。しかし、資本主義の世界は成り上がりの商人の方が強い。そして何よりも財閥の力は家柄よりも大きいのだ。
 かくして、華族は上流階級として国民の先頭に立つという役割を果たせなかった。1937年に近衛文麿が総理となるが時すでに遅く、戦争を防げなかった。そして戦後、華族は廃止されたが、それも明治以来の彼らの無能に原因があろう。
好解説・良資料

華族。知っているようで知らない、この戦前の制度についてのコンパクトかつ的確な解説書である。最後の華族一覧の資料も、現時点での決定版と言える。どこも興味深いが、特に、普通選挙法施行後に、むしろ貴族院が抵抗勢力として重きをなして来た(そういえば、近衛文麿はバリバリの華族だし、天皇機関説事件は貴族院で勃発したのだった!)という指摘は、目から鱗である。華族に軍務を、が軍人を華族にすることで達成したという皮肉も興味深い。気になるとすれば、旧華族がいまどうなったかである。
決して一枚岩ではなかった華族

「華族」と言う言葉を聞くと、すぐに鹿鳴館でダンスに興じている人たちをイメージしてしまうのだが、やはりそれは一面に過ぎない。公家と大名、軍人と経済人、歴史ある家系と明治以降の成り上がり、と言った風に様々な階層の人たちを含んでいたために決して一枚岩ではなく、大資産家がいた一方、経済的困窮から爵位を返上する者、「皇室の藩屏」であったにも関わらず共産主義に共鳴する者、軍務に就くことを奨励されながらも趣味や芸術に走る者、などもいたのである。

華族制度が無くなってしまった現在、それがどのようなものであったのかを感覚的に掴むのは難しいが、本書を読むとその実態が見えてくる。
華族婦女子のグラビアの意味についても理解できた

 かつて日本にあった特権階級。彼らはいかにして華族となり、どんな社会貢献、どんな生活をして、どう見られていたか。
 本文にもあるとおり、華族と言ってもさまざまな経緯を持ち、さまざまな経済状態にあったから、ひとくちにまとめてしまうことはできないようだ。その結果この本はまとまった華族の描写を提供しているが、ある意味焦点を欠いている。ともあれ、現在の大物政治家や資産家の一部が華族の血筋と財産を受け継いでいる点では、現在の社会の理解にそのままつながっていく部分もある。

 社会の発展の特定の相では、特権階級もまた大きな役割を果たしたように思う。社会が豊かでない状況で、文化の急速な発展が可能になるのは、特定の人たちに資産を集中した方が良い場合もある。
 自分たちのもたらした社会発展に足を取られて零落するのもまた、特権階級の定めなのかもしれない。ともあれ、その存在の余波は現在においても残っている。そうした状況を知ることは、自らのおかれた社会の知らなかった部分を理解するという点で興味深い体験だった。
最良の華族入門書

近代日本史に硬軟両面で常に話題の中心であり続けた華族について、歴史を追いつつ概略を紹介する。公家、武家のほか、維新の功労者、財界人、宗教家のほか、南朝忠臣の末裔というかなり胡散臭い家まで、多種多様な上流階級人が「皇室の藩塀」の名の下、「華族」として一括りにされたという。

華族については色恋沙汰、苦しい台所事情などのスキャンダラスな軟派な面と、戦前いわゆる華族社会の中でも本流である近衛、木戸、有馬といった「革新華族」が台頭し、貴族院や宮中を舞台に、軍部と連携してファシズムを推し進めた政治的側面の両面がある。本書は両面を詳しく紹介するほか、明治の華族批判、朝鮮貴族、華族の職業分布などこれまで余り知られていなかった話題にもじっくり触れるなど、紙数の限られた中、できるだけ多面的に華族の実像を解明している。また、書中に写真や一覧表が多いのがとてもいい。特に「日露戦後叙爵者一覧」「貴族院会派系統図」などの一覧表は、簡便な華族関連資料として重宝するし、読む際にイメージも湧きやすい。

これほど近代社会、政治に大きな影響を与えたにもかかわらず、華族制度自体の通史がなかったのは驚きでもある。本書には、斬新な解釈があるわけではないが、これまでどこか一部分にしか焦点を当ててこられなかった華族について、広く知識を提供してくれる。中公新書らしい、重厚さのある歴史書といえる。



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